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法の壁」に悩む現場―特養の介護職員、医療行為の行方

利用者の重度化で、医療ニーズへの対応を迫られる特別養護老人ホーム。本来、介護職員が吸引などの医療行為を行うことは法律上認められていないが、看護職員の手が足りず、介護職員が医療行為を行わなければならない状況が顕在化している。厚生労働省も今年6月、特養での介護職員の医療行為の可能性を検討するため、介護職員が口腔内の吸引など一部の医療行為を行うモデル事業の実施を決定。全国の特養約130施設がモデル事業に参加した。来年にはモデル事業の評価が行われる予定だ。特養で今、何が起こっているのか。介護職員の医療行為の行方は―。(萩原宏子)

■モデル事業実施へ/慎重論も
 こうした状況を受け、厚労省も動き出した。今年2月、特養での介護職員の医療行為について話し合うため、「特別養護老人ホームにおける看護職員と介護職員の連携によるケアの在り方に関する検討会」の初会合を開催した。
 6月の第2回会合では、特養の介護職員が施設内で研修を受けた上で、看護職員との連携の下、口腔内の吸引と経管栄養の一部を行うモデル事業の実施を決定。介護職員が医療行為を行う前に受ける研修の内容の検討や、医療行為実施に当たっての留意事項などを記したガイドラインの作成も進めた。9月には、全国の特養約130施設でモデル事業がスタート。久我山園もモデル事業に参加した。

 ただ、介護職員に一部の医療行為を認めることに懸念を示す意見もある。検討会の三上裕司委員(日本医師会常任理事)は2月の初会合で、「そもそも24時間医療行為を必要とする人が特養に入って来ていいものか。医療ニーズのある人が増えているのであれば、医療行為ができる施設を増やしていくのが本来あるべき姿だ」と指摘。第2回会合でも、「一定の研修を受ければ医行為ができるようにするのは、賛成しかねる。医師や看護師の資格試験の価値の問題にもなる」と語った。
 また、齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)も第2回会合で、モデル事業で介護職員が行う吸引の範囲について、「今回は口腔内に限定してほしい」と述べ、業務範囲の拡大は慎重にすべきとした。

■業務範囲の拡大、厚労省は積極的?
 しかし厚労省の動きからは、介護職員の業務範囲の拡大を図る方向で検討を進めたい意向がうかがえる。そもそもモデル事業自体、一部の委員が「モデル事業で『違法行為』を行うのは問題」との批判を展開する中、座長が懸命の説得を試み、厚労省の宮島俊彦老健局長が「警察が実際に動く時には、いっぺん厚労省に照会が来る」との苦しい弁明をしてまで何とか実施にこぎつけたもの。宮島局長は3月には日本介護経営学会のシンポジウムで、「介護福祉士は基礎的な医療的ケアができるようになることが必須の条件になるのではないか」とし、9月には日本老年行動科学会の大会で、介護福祉士やヘルパーも一定の医療行為を行えるようにすべきとの考えを述べている。
 さらに医政局の杉野剛医事課長は12月21日、構造改革特別区域推進本部評価・調査委員会の医療・福祉・労働部会で、看護師と介護職員の業務範囲について「できれば来年度には検討を進めたい」と発言した。
 モデル事業で「吸引は口腔内のみ」などとされた介護職員の業務範囲を、さらに拡大したいとの本音を漏らす厚労省の担当者もいる。

■教育をどうするか
 ただ、介護職員による一部の医療行為を恒常的に認める場合、介護職員の養成の在り方そのものを見直すことが必要との意見もある。
 モデル事業のガイドラインの作成など、モデル事業の在り方を検討するために設置された「専門委員会」の委員で、特養の施設長を務めた経験もある日本介護福祉士会の内田千惠子副会長は、「看護職員は数年間、徹底的に医療を学び、その基盤があった上で吸引や経管栄養を行う。介護職員が少し教えてもらったところで、土台にある知識や経験は全く及ばない。もし今後、介護職員が恒常的に行えるようにするなら、介護職員養成のカリキュラムそのものを考えなければいけないはず」と語る。
 今回のモデル事業も「『緊急避難』的なものであるべき」との立場。介護職員が恒常的に医療ニーズに対応するのではなく、看護師がどうしても対応できない時に、看護師ときっちり連携して行うことが必要だと強調する。

 現場からも、介護職員が一部の医療行為を行う上で必要な知識や技術を明確にし、研修制度を整えるべきとの声が上がる。
 久我山園の市橋さんは、「法制度上の問題と同時に研修の仕組みを整えることも必要。介護職員が一部の医療行為をする上で、基礎的な理論や手技など、何を習得すべきなのかを明確にし、『ここまでできれば大丈夫』という水準を明らかにすべき。公的な研修制度の仕組みも必要だ」と語る。江戸川光照苑の水野さんも、「施設側に教育をすべて任せるのは問題。ある程度、標準化された教育が必要だと思う。例えば介護福祉士は一定期間、医療行為の研修をする仕組みを整備し、その研修を受けて初めて医療行為ができるという形にしないといけない」と話す。
 実際、特養の介護職員の中には、「吸引後の痰は捨てずに取っておいて、看護師に見てもらう。痰の色など、看護師だったら気付く変化に、自分は気付いていないかもしれないから」と語り、違法だから不安というだけでなく、知識や技術が十分に備わっているか分からず不安だと訴える人もいる。

 9月から始まったモデル事業は12月中旬で終了。来年の1月には、モデル事業に参加した施設同士の相互訪問が行われ、その後、モデル事業の「専門委員会」が評価を行い、報告書をまとめる。厚労省によると、検討会の第3回会合は報告書がまとまった後に開かれる予定で、モデル事業の評価を踏まえ、▽介護職員がモデル事業で行われた一部の医療行為を行うことはできるか▽介護職員が一部の医療行為をする場合、どんな研修が必要か―などについて話し合う見通しだ。
 介護職員の医療行為は実現するのか―。今後の議論が注目される。

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