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介護職員の処遇改善は実現するのか.「介護報酬改定と介護職員処遇改善交付金」

■プラス改定の効果は?
 09年4月の介護報酬改定は、00年度に介護保険制度がスタートしてから初の引き上げとなった。介護従事者の処遇改善を柱に、報酬が3%引き上げられた。
 ただし、この改定は基本報酬の部分を上げ、介護事業者に満遍なく配分するものではなかった。夜勤といった負担の大きな業務や、事業者が介護福祉士を一定の割合で配置しているかなどを評価し、加算を通じて手当てするものだった。
 この改定によって、処遇はどれほど改善されたのか。日本介護クラフトユニオンが8月に組合員約4000人を対象に実施した調査によると、月給制の介護従事者(回答者1085人)では、改定を境に月額平均で6475円アップしたという。
 しかし、賃金改定の満足度については、「満足」が2割(「満足している」2.8%、「まあまあ満足している」17.2%)なのに対し、「不満」が3分の2(「大いに不満である」36.2%、「少し不満である」30.4%)を占めている。
 この結果について日本介護クラフトユニオンでは、もともとの賃金が安いために、満足していないのではないかと分析。また、賃上げゼロのところもあれば、1万円以上引き上げたところもあるとし、事業者によって差が生まれていると指摘した。
 そもそも当時の自公政権は、3%の報酬引き上げで目安として月額2万円の賃金アップになるとしていた。しかし、改定の詳細が示されてからは、とてもその水準には及ばないという声が多かった。

■交付金、なかなか進まぬ申請
 4月の報酬改定から間髪を入れずに、政府は介護分野の追加経済対策として、介護職員1人当たり1万5000円相当を手当てする「介護職員処遇改善交付金」を今年度の第1次補正予算に盛り込んだ。09年10月から11年度末までの2年半、各都道府県に基金を設置して実施するもので、事業規模は約4000億円だ。
 交付金を歓迎する声がある中、事業者などからは、制度が複雑で分かりにくいなどの声も聞かれていた。当初、09年10月のサービス提供分から交付を受けるためには、同月中に申請する必要があったが、10月14日時点の全事業所の申請率は48%にとどまった。長妻昭厚生労働相は半分にも満たない申請率について、補正予算が執行停止になるのではないかという懸念や、制度終了後の12年度以降も交付金が続くのかが不透明なことから、事業者が介護職員の賃金アップを伴う交付金の申請に躊躇したのではないかと要因を指摘。このため、12年度以降も介護職員の処遇改善策に継続して取り組む考えを示した上で、申請を行うよう促した。また厚労省は、申請率向上を図るため、12月末までに申請すれば、10月のサービス提供分までさかのぼって交付を行うこととした。10月30日時点の申請率は72%にまで上がったが、都道府県別に見ると、最も高かった秋田(84%)から最も低かった宮崎(52%)まで、30ポイント以上の差があった。厚労省では、「新たに申請率を公表する時期については、今後検討する」としており、12月末までにどれだけの事業所が申請をするのか注目される。

■対象は「介護職員」に限定
 交付金の対象を「介護職員」に限定している点を問題視する声も多い。全国老人保健施設協会(全老健)は10月、「多職種協働のチームケアに大きな弊害をもたらす」として、対象を介護職員以外にも広げるよう求める要望書を長妻厚労相らに提出した。
 また医療者側からは、全国保険医団体連合会(保団連)も12月、長妻厚労相らにあてて要望書を送付。介護職員とそれ以外の職員との間に不公平が生じるなどとして、交付金制度に代え、報酬の7%引き上げを早急に実現することなどを求めた。

■どうなる、キャリアパス要件
 厚労省は介護職員の賃金改善と併せ、職員の定着促進に向けて、来年度以降は交付金の支給要件として「キャリアパス要件」を導入する。実施要領では、この要件を満たさなければ交付金が減額されることになっているが、要件の具体的な中身についてはこれからだ。
 このキャリアパス要件について、厚労省老健局の土生栄二振興課長は11月17日、「全国地域包括ケア推進会議」の中で、10年2月のサービス分から適用することはしないとのスケジュール案を示した。
 厚労省は今年度中に要件の具体的な中身を決める方針だ。その参考にするため、12月11日には「介護職員のキャリアパスに関する懇談会」を開き、介護関連団体などの意見を聞いた。
 厚労省はキャリアパスをつくっていくための基本要素として、介護職員がその法人の仕事やポストに就くために必要な能力・資格・経験や、それに応じた給与水準を定める方針を示している。キャリアパス要件の内容についても、「給与体系」「人事制度」「職員のキャリア形成支援」が柱となりそうだ。
 懇談会では、介護事業者に中小零細が多いことを考慮して、キャリアパス要件は小規模の事業所でも満たせるものにすべきとの意見が多かった。このほか、キャリアパス制度を継続運用していけるだけの介護報酬上の裏付けが必要との意見も出された。

■今後の見通しは?
 民主党は先の衆院選で、「事業者に対する介護報酬を7%加算し、介護労働者の賃金を月4万円程度引き上げる」などとマニフェストに掲げた。
 しかし、10年度一般会計予算の概算要求は、総額で約95兆円にまで膨張。一方で、世界的な景気後退の影響で、09年度の税収は当初の見込みよりも9.2兆円減り、36.9兆円にまで落ち込む見通しだ。10年度の税収も、40兆円を割るとの観測もある。景気や財政が悪化する中、4万円アップ実現の可能性はまだ見えてこない。

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